サイレントフィルム taniguchip

イノベイティブなクリエイティブと生産性

1.スパイダーバースの衝撃

映画「スパイダーバース」を見て、“CGアニメ映画”ではなく、コミックがそのまま動い
ている感じにとてもショックを受けました。ピクサーのCGアニメではない全く
新しい表現だと思いました。アメリカのイノベイティブなクリエイティブは凄い!
思わず、アメリカの株かETFを買おうと思いました。2Dアニメが得意な日本のお株
を奪われた感じです。でも見てない人も多い!特にCG・アニメ会社の経営者の人たち!
長い目で見ると、映像で残るのは俳優の演技も含め技術だと思います。
名作といわれるものは、その時代の最新技術のドキュメンタリーだと思います。
日本の企画者は、技術的なことに無関心な人が多いと思います。私が映画を初めて
プロデュースする時に、元NHKのプロデューサーから、技術を優先するべきではないと
はっきり言われたことがありますが、映像で残るのは技術です。海外の名作映画で、
新しい技術を生かすために作られた映画がとても多いです。

2.あるディレクターの話

もう一つの生産性の問題。ある有名なディレクターと初めてCMの仕事をしました。
演出コンテは素晴らしいのですが、忙しくて、準備に対するリアクションが遅く、
ロケハンにすら行け(か)ないので、本番直前で決まることが多いです。
そのディレクターは多くの優秀なスタッフがサポートする体制になっているのですが、
足りない部分を補うことはできても、コストダウンや新しいやり方にチャレンジすること
はないので、お金がかかり作品的にブレイクできません。長年よくこんなやり方を
続けていたのか少しびっくりしました。それを容認してきたプロデューサー達にも問題
があると思います。ベテランのディレクターは、スタッフ等、仕事のやり方が決まっている
人が多いです。しかし映像の制作方法に永遠はありません。改良できるところはどんどん
実行するべきです。学習したら、その次は前回よりも上手くやるというのが仕事の基本
です。しかしその場限りの解決に満足して、反省しないで同じことを繰り返す人たちが
なんと多いことか!

3.本当にお金がないのか?

CMのスタッフの間で、「今回お金がない」という話をよく聞きます。しかし実際、
どの程度ないのか? 必要なクオリティを保つのにどのくらいお金が必要なのか、
わかっている人はほとんどいないと思います。少し違うかもしれませんが、合成用の布の
レンタルを専門にしているある会社が急速に大きくなったのは、「必要なクオリティ」を
保つために何が必要なのか的確に把握したからだと思います。そして「必要なクオリティ」
がオーバークオリティであることがポイントです。みんなオーバークオリティが大好きです。

4.安くて良いもの

基本は安くて良いものを作ることです。しかし映像の場合、安くても大量生産できない
ので、ファストフードよりも満足度は減ります。高い映像もCMの場合はほとんどオーダー
メイドで、同じものを作り続けているわけではないので、失敗する可能性が三ツ星レストラン
よりもはるかに大きいです。以前在籍した会社では、良いものを高く売るという方針に反対して
その時の社長と大ゲンカをしたことがあります。良いものは最終的にお金を払うお客さんが
決めることです。しかし良いものの判断は難しく、啓蒙、教育、プロモーションが必要です。

5.CMのスタッフ

誤解を恐れずに言ってしまうと、CMをメインにやっているスタッフほど、やり方に柔軟性、
多様性が不足しがちになります。そして最近の若い人は従順な人が多いので、その古いやり方を
ずっとやり続けるという悪循環になっている可能性があります。逆にMVなど常に予算がない仕事
を出発点にしているスタッフほど創意工夫の可能性があります。但しそのようなスタッフが、CMの
メインステージで活躍しようとすると、既得権(!?)を守ろうとする業界の参入障壁が高いこと
も事実です。昔のCMは最新技術のショーケースだったのが、今では効果が目に見えない高い技術
のショーケースになってしまっている場合が多いと思います。80年代のCM NOWという雑誌に
当時のCMのメイキングが多く載っていますが、デジタルのない時代の日本のCMスタッフの奮闘
ぶり(無茶ぶり)が数多く残っています。(全くお勧めできないやり方もあります。)

6.生産性を上げるには。

忙しいと分業化が増えます。しかしテクノロジーの発達で、ある程度解消できると思っていた
仕事の量は増えるばかりです。π(パイ)は限られているのに何かがおかしい。これは人間の習性
の問題なのでしょうか?
「新・観光立国論」で有名なデービッド・アトキンソンが、新聞で「最低賃金を上げれば、
生産性が上がる」という提案をしていましたが、そんな簡単なものでないと思いました。
日本の場合ニッチやブームを狙って儲けようという会社が多いのですが、当然長続き
しません。各々が生産性の向上を目指して、できるところからやっていけば、その集積こそが、
神の見えざる手になりうると思います。

最後に

マーク&ロナという作品はほぼ1人でやっています。最初ドキドキしていたのですが、
インターネット等の技術の発達で、昔に比べたら制作の仕事がかなり楽になっていることに
気づきました。(もちろん、先程言ったように無駄も増えている。)しかし大きく実感したのは、
制作を支えるスタッフ、協力会社の存在です。かつていろいろお願いをしていた会社に、ひさし
ぶりに電話してみると皆さん喜んで協力してくれました。また新たに関係を作ることができる会社
もできました。スタッフ、協力会社がいないと映像はできません。協力し合って効率よく利益を
上げながら良い作品を作ることは、映像産業にとってとても重要なことだと実感しました。

いつもの話ですがやりすぎは良くないです。ある人から「勝ち過ぎた監督 駒大苫小牧
幻の三連覇」という北海道の高校が夏の高校野球で連覇する本を勧められたので読みました。
勧めてくれた人は、勝ちすぎた監督にしか見ることができない地平があるのではないかと言うの
ですが、私の感想は全く逆で、自分の経験上勝ちすぎるとやはりロクなことがないと思いました。

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